電脳紙芝居記事の全文
日本における統一教会解散後(3) 強制改宗 ジャーナリストが語る、拉致・監禁・棄教の強要、そして訴訟が、いかに統一教会への社会的敵意を形作ったのか。 福田ますみ ※2026年6月29日、ベルギー・ブリュッセルのブリュッセル・プレスクラブで、人権団体「Human Rights Without Frontiers(国境なき人権)」が主催した記者会見「日本――ある宗教が根絶されるまでの隠された物語」における講演。 写真1 ブリュッセルでの記者会見で、「Human Rights Without Frontiers」の共同創設者兼代表であるウィリー・フォートレ氏とともに、自著『国家への生贄(Sacrifice to the Nation)』を紹介する筆者。 写真:FOREF ここで少し、私自身についてお話ししたいと思います。 私は多くの日本人と同じように、宗教にはほとんど関心がなく、新宗教に対しても特に良い印象を持っていたわけではありません。 しかし、安倍晋三元首相が暗殺された直後、メディアが統一教会への批判一色となる中、私は自分自身でこの教団について調査を始めることを決意しました。 なぜでしょうか。 暗殺事件のおよそ1年前、私はまったく別の取材で、たまたま統一教会の信者の一人にインタビューしたことがありました。 その取材のテーマは宗教ではありませんでした。 彼は別の分野の専門家で、私の質問に一つひとつ正確に答えてくれました。そして何よりも、その人柄の優しさ、誠実さ、温かさが非常に印象的でした。 統一教会は以前から日本社会で否定的に見られていましたが、その時私は心の中で、 「こういう人もいるんだな」 と思ったことを今でも覚えています。 暗殺事件後、その思いやりにあふれた人物の姿は、「日本を食い物にする邪悪な組織」として描かれる教団のイメージとは、あまりにもかけ離れていました。 私はその矛盾に強い違和感を覚えました。 迷った末、私は彼に短い励ましのメールを送りました。 そこには、おおよそ次のようなことを書きました。 「これは魔女狩りになっています。宗教迫害です。どうか負けないでください。」 彼はすぐに返信をくれました。 その返事には、彼がどれほど絶望していたかが率直に綴られていました。 「あなたのメッセージを読んで涙が出ました。 今は、自分の存在そのものを否定されているような気持ちです。 自分一人だけが苦しむのであれば耐えられます。 でも娘がいます。 娘のことを考えると……。」 私は深く心を揺さぶられました。 なぜ、宗教を信じているというだけで、このような扱いを受けなければならないのでしょうか。 そして、活動中の信者がわずか6万~7万人ほどしかいない比較的小規模な宗教団体が、なぜ社会全体からこれほどまでの激しい敵意を向けられるようになったのでしょうか。 こうした疑問こそが、私の調査の出発点となりました。 私はジャーナリストとして一貫して、圧倒的なメディア報道や世論の中で見過ごされたり、押しつぶされたりしてしまう真実を掘り起こすことを心掛けてきました。 その姿勢を形作った経験の一つが、ロシアでの取材でした。 2008年前後、私はモスクワの独立系新聞『ノーヴァヤ・ガゼータ』に長期間滞在し、編集長ドミトリー・ムラートフ氏をはじめ、多くの記者たちにインタビューを行いました。 その取材をもとに、私は『暗殺国家ロシア――消されたジャーナリストを追え』という本を書きました。 ウラジーミル・プーチン政権下では、権力者にとって都合の悪い真実を暴こうとするジャーナリストたちが、組織的に標的とされ、命を奪われてきました。 わずか100人余りのスタッフしかいない『ノーヴァヤ・ガゼータ』ほど、その犠牲を受けた新聞社はほとんどありません。 1993年の創刊以来、この新聞社では5人の記者と1人の法律顧問が、銃撃、毒殺、あるいは残虐な暴行によって命を落としています。 それでも私は、危険を承知の上でペンを置くことなく取材を続ける記者たちに出会いました。 彼らは決して筆を折ろうとはしませんでした。 そして2021年、編集長のドミトリー・ムラートフ氏は、その功績が評価され、ノーベル平和賞を受賞しました。 写真2 ドミトリー・ムラートフ氏 写真:Olaf Kosinsky 調査を続けるうちに、私は統一教会について、日本の主要メディアではほとんど、あるいは全く報じられていない数多くの事実を知るようになりました。 その中でも、私が最も強い問題意識を抱いたのは、信教の自由、人権、そしてジャーナリズムの役割そのものに関わる未解決の問題でした。 最も衝撃的だった発見は、1966年から2014年までの間に、4,300人以上の統一教会信者が拉致・監禁され、信仰を捨てさせる目的で拘束されていたという事実です。 監禁場所の多くは民間のマンションやアパート、あるいは精神科病院でした。 中には12年5か月もの間、監禁され続けた人もいます。 このような重大な人権問題であるにもかかわらず、日本の主要メディアではほとんど報道されてきませんでした。 被害者たちの証言は、胸が締めつけられるようなものです。 彼らは 「信仰を捨てるまで絶対に外へ出さない」 と言われ続けました。 ある人は監禁先から逃げようとして3階の窓から飛び降り、脊椎を大きく損傷しました。 また別の人は6階から飛び降りました。 命は助かったものの、脳に重い後遺症が残り、記憶障害を抱えることになりました。 絶望のあまり、解放してもらおうとして醤油や家庭用洗剤を飲んだ人もいます。 自ら命を絶った人もいました。 若い女性の中には、監禁中に性的暴行を受けたと証言する人もいます。 最終的には、こうした拉致・長期監禁を受けた人の60~70%が、圧力によって信仰を放棄したと推定されています。 さらに教会を離れた後も、多くの人が**PTSD(心的外傷後ストレス障害)**をはじめとする長期的な精神的後遺症に苦しみ続けています。 では、この拉致・監禁の責任は誰にあるのでしょうか。 ほとんどの場合、それを実行するのは信者本人の家族です。 私の取材では、その家族たちは、信仰を捨てさせることを専門とする**ディプログラマー(脱会工作を行う人物)**や、統一教会を異端視するキリスト教牧師らから影響を受けています。 親たちは、 「息子や娘が統一教会に残れば、犯罪者になってしまう。」 などと説明されます。 子どものためになると信じ込まされた親たちは、自らの子どもを拉致し、監禁するよう説得されるのです。 こうした仕組みによって、ディプログラマーや牧師は、監禁行為そのものには直接関与せずに済みます。 また警察も、これらを家庭内の問題として扱うことが多く、刑事事件として介入することはほとんどありません。 信者が監禁されると、ディプログラマーや牧師は、その監禁場所となっているマンションや住宅を何度も訪れます。 そこで教団の教義を攻撃し、教祖を非難し、執拗な言葉による攻撃を繰り返します。 場合によっては暴力も振るわれます。 目的はただ一つ。 本人の精神を打ち砕き、信仰を放棄させることです。 私は、この拉致・監禁システムは、戦後日本における最も深刻な人権侵害の一つだと考えています。 しかし、それ以上に恐ろしいのは、この仕組みが組織的かつ自己増殖的なシステムへと発展していったことです。 信者がようやく 「統一教会を辞めます。」 と表明すると、その意思が本物であることを証明するため、ディプログラマー側は一連の**「試験」**を課すとされています。 その内容には、 教団本部への正式な脱会届の提出 懺悔文や反省文のような長文を書くこと 教団で禁じられている飲酒をすること 他の監禁中の信者を訪ね、脱会を説得すること などが含まれます。 そして最終的には、多くの場合、 統一教会を相手取って訴訟を起こすよう指示されます。 もし拒否すれば、 「本当に脱会したとは信じられない。」 と言われ、実質的には従わざるを得なくなります。 訴訟では、 マインドコントロールされた 教団に入信させられた 宗教商品を買わされた 高額献金を強要された などと主張することになります。 私は、この過程によって、本来は拉致・監禁の被害者だった人々が、今度は統一教会の被害者として社会に提示されるようになるのだと考えています。 こうした訴訟が積み重なることで、 「統一教会は社会に深刻な被害を与えた。」 という世論がさらに強まり、教団の評判は一層悪化します。 また、相次ぐ訴訟は教団に大きな経済的負担も与えます。 私は、これが元信者による民事訴訟が非常に多くなった理由の一つであると考えています。 一方で、私の取材によれば、ディプログラマーやキリスト教牧師には、脱会が成功すると家族から多額の報酬が支払われるとされています。 つまり、強制的な脱会は一つのビジネスになっているのです。 さらに牧師たちは、信仰を失った元統一教会信者を自らの教会へ導くことで、新しい信者を獲得することもできます。 このように、この仕組みは関係者すべてに利益が生まれる構造になっています。 先ほども申し上げたように、統一教会を相手とする訴訟のほぼすべては、**全国霊感商法対策弁護士連絡会(NNLASS)**に所属する弁護士によって担当されてきました。 興味深いことに、12年5か月監禁された信者が起こした民事訴訟では、かつてNNLASSに所属していた弁護士自身が、同団体を批判する陳述書を提出しています。 その訴訟は、監禁を実行した親族だけではなく、監禁を指示したとされるディプログラマーや、関与したキリスト教牧師も被告となりました。 その陳述書によれば、NNLASS所属の弁護士たちは、ディプログラマーによる拉致・長期監禁の実態を十分認識していたにもかかわらず、それを黙認していたとされています。 さらに、多くの弁護士が、 「カルト」と呼ばれる団体に対しては裁判所が不利な判断を下しやすい と考え、そのような事件を経済的に利益の大きい案件として捉えるようになっていったことも示唆されています。 写真3 全国霊感商法対策弁護士連絡会(NNLASS)の著名なメンバーである紀藤正樹弁護士。 ある弁護士は、「カルト」とレッテルを貼られた団体に対してであれば、本来であれば民事裁判では認められないような法的主張であっても、裁判所が受け入れる傾向があると述べています。 また、その弁護士は、司法の内部には、 「カルト」と呼ばれる団体の代理人になれば、負けることはほぼ避けられない。 という暗黙の前提が存在しているように感じられたとも語っています。 もしこれらの指摘が事実であるならば、それは司法が公平・中立に運営されているのかという点について、極めて重大な疑問を投げかけるものです。 実は私自身も現在、NNLASSに所属する弁護士の一人から名誉毀損で提訴されています。 訴状では、私が月刊誌に掲載した記事に虚偽の内容が含まれていると主張されています。 しかし、私はその主張を全面的に否定しています。 私の取材内容を裏付ける膨大な資料を保有しており、それらを裁判所に提出して立証を進めています。 この訴訟は、私の著書が出版された直後に提起されました。 そのため私は、この裁判の目的の一つが、少なくとも私の本の出版を萎縮させたり、妨害したりすることにあったのではないかと考えざるを得ません。 強制的な脱会工作の影響は、それだけにとどまりません。 このような経緯で信仰を捨てた元信者の多くは、教団に対して深い憎しみを抱くようになります。 そして、その一部は後にメディアへ出演したり、法廷で証言したりし、教団に不利な証言を行うようになります。 それらの証言が事実かどうかにかかわらず、社会の統一教会に対する否定的なイメージはさらに強化されます。 その結果、不安を抱いた別の家族がディプログラマーに相談し、自分たちの子どもを拉致・監禁するようになります。 こうして、 拉致 → 監禁 → 強制脱会 → 訴訟 という連鎖が繰り返されるのです。 私は、この悪循環が終わることなく続いてきたと考えています。 さらに私は、この強制脱会の歴史と、最終的な統一教会への解散命令との間には直接的な関係があると考えています。 私の調査によれば、教団に不利な証拠として裁判で用いられた民事訴訟の原告の半数以上は、過去に拉致・監禁された経験を持つ人々でした。 彼らの証言は、多くの裁判において証拠の一部として採用されています。 私は、それらの証言が、最終的に教団の解散命令へと至る司法判断に大きな影響を与えたと考えています。 初めてこの話を聞く方にとっては、非常に複雑に聞こえるかもしれません。 しかし、長年にわたる取材を通じて、私は次のような結論に至りました。 文部科学省をはじめとする政府機関、司法の一部、警察、そして特定の弁護士団体などが相互に作用し合うことで、統一教会の解散へとつながる状況が作り出されたのです。 その過程で、4,300人を超える信者が強制的な脱会工作の対象になったとされる事実は、私にとって極めて重大な人権問題です。 私は普段、単純な陰謀論には懐疑的です。 しかし、私の取材結果から判断すると、この問題は単なる偶然の積み重ねではなく、国家機関が関与した一連の協調的な動きとして理解しなければ説明できないと考えています。 この問題は、中国やロシアなどで起きている宗教迫害と比べれば小さな問題だ、と考える人もいるかもしれません。 確かに、日本では宗教指導者や信者が投獄されたり、処刑されたりしているわけではありません。 しかし私は、自由・民主主義・法の支配・信教の自由を掲げる先進民主国家で、このような事態が起きたことにこそ重大な意味があると考えています。 国家が広範囲にわたる人権侵害の疑いを放置し、その一方で解散命令という法的手段によって礼拝施設を奪うことは、目立たない形ではあるものの、極めて深刻な宗教迫害であると私は考えています。 裁判所は、 「解散命令は宗教法人としての法人格や税制上の優遇措置を失わせるだけであり、信教の自由そのものを侵害するものではない。」 と判断しています。 しかし私には、その論理は**法律上のフィクション(法的擬制)**に過ぎないように思えます。 宗教団体が法人格を失えば、その宗教共同体は組織を維持し、活動を続け、信仰を共同で実践する能力の大部分を失ってしまうことは避けられません。 最後に、自由・民主主義・信教の自由を大切にしているヨーロッパの皆さまにお願いがあります。 どうか、極東の民主国家・日本で現在進行していると私が考える宗教迫害に関心を持ってください。 そして、自らの基本的人権が侵害されたと考えている信者の方々に、皆さまのご理解とご支援をお願い申し上げます。